
「輸出なんて、うちのような規模の農家には関係のない話」——そう感じている経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。国内市場は人口減少とともに縮小を続け、価格競争も年々厳しくなっています。そんな中、2025年の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円となり、13年連続で過去最高を更新しました。しかもその内訳を見ると、大手商社主導の大規模輸出だけでなく、地方の中小産地が独自の工夫で海外販路を切り開いた事例が着実に増えています。輸出は、もはや一部の大規模経営だけのものではありません。
追い風が吹いている今の輸出市場
2025年の輸出実績を品目別に見ると、緑茶が720億円と前年比でほぼ倍増、ホタテ貝が906億円(+30.4%)、ブリが528億円(+27.4%)と大きく伸びています。輸出先としては米国が2,762億円で首位、香港、台湾と続きますが、上位国が分散していることも特徴です。一極集中ではなく複数の市場を持てる時代になってきたということです。政府は2030年までに輸出額5兆円という目標を掲げ、2026年5月には輸出を後押しする「重点品目」を29から31品目に拡大し、梨やカキなどこれまで対象外だった品目にも支援の網を広げました。円安基調も追い風となり、日本産品への引き合いは総じて強まっています。輸出支援プラットフォーム「GFP」への登録者数はすでに1万人を超えており、生産者や事業者が一人で情報収集や商談ルートの開拓に奔走しなくても、既存の輸出コミュニティに参加することで海外バイヤーとの接点を得やすくなっている点も見逃せません。
中小規模でも使える「フラッグシップ輸出産地」制度
とはいえ、輸出には検疫や残留農薬基準への対応、海外バイヤーとの商談、コールドチェーンを含む物流コストなど、国内出荷にはない負担が伴うのも事実です。単独の農家がいきなり海外市場に飛び込むのは現実的ではありません。そこで注目したいのが、農林水産省の「GFPフラッグシップ輸出産地」制度です。これは、輸出先の規制やニーズに対応し、一定の実績を持ち、継続的・安定的な供給体制を構築している産地を認定する仕組みで、認定されると各種支援策の優先適用に加え、海外バイヤーとのマッチングや情報発信の支援を受けられます。実際に、静岡県では茶・抹茶のブランド輸出で売上を伸ばし、千葉県のJAいちかわは長期保管技術を活かして冬季にドバイへ和梨を輸出するなど、地方の中小産地が独自技術と産地の連携によって輸出を実現しています。大切なのは、一人で完結させようとせず、地域の産地・JA・自治体と連携して「継続的な供給体制」を少しずつ積み上げていくことです。GFPでは輸出診断や産地形成支援も用意されているため、まずは自分たちの品目が輸出先国のどの規制や需要に対応できているかを客観的に確認するところから始めるのが現実的な一歩になります。
輸出は「地域を守る」ための選択肢でもある
私たちGREEN BENEFITは、農業と環境、そして地域活性化をつなぐ視点から経営支援を行っています。輸出というと売上拡大の話に聞こえがちですが、実は地域の農業を長く続けていくための選択肢でもあります。国内市場だけに依存しないことは、価格下落や需要変動といったリスクを分散し、産地全体の経営基盤を安定させます。また、海外で評価される品質基準やブランドストーリーづくりは、地域の農産物の価値を再発見し、次の担い手にも誇りを持って引き継げる産地づくりにつながります。輸出は特別な誰かがやることではなく、地域で一歩ずつ積み上げていける経営戦略の一つなのです。
まとめ・行動提案
輸出額が13年連続で過去最高を更新する今は、中小規模の農家や産地にとっても海外展開を検討する好機です。まずは自分たちの産地の強み——保存技術や品質、ストーリーなど——を棚卸しし、JAや自治体、GFPのような公的支援制度の窓口に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。一つの産地、一つの品目からでも、着実に実績を積み重ねていくことが、5年後、10年後の経営の選択肢を広げることにつながります。