
「有機農業は知っているけれど、リジェネラティブ農業は聞き慣れない」という農業経営者の方も多いのではないでしょうか。しかし2026年、この「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」が農林水産省の重点施策に位置づけられ、北海道十勝では国の認定を受けた実証事業も始まりました。資材価格の高騰が続く今、農地を再生しながら経営コストも下げる——そんな可能性を秘めたアプローチとして、全国の農業現場で注目が高まっています。
「サステナブル」を超えた、農地を"回復させる"農業
近年よく耳にする「サステナブル農業(持続可能な農業)」は、環境への負荷を減らし、現状を維持することを目標とする考え方です。それに対し、リジェネラティブ農業は現状よりも良くすることを目標としています。傷んだ土壌を修復し、失われた生物多様性を取り戻し、農地に本来の生産力を蘇らせる——まさに「再生・回復」を意味するRegenerativeという言葉が表すとおりの農業です。
具体的な実践技術としては、土を極力耕さない不耕起栽培(ノーティル)、作付けをしない期間に農地を緑肥作物で覆うカバークロップ(被覆作物)、複数の異なる作物を計画的に回す輪作、そして有機物や堆肥の積極的な投入などがあります。これらを組み合わせることで、土壌中の微生物や菌根菌が活性化し、土の保水力・保肥力が高まっていきます。
なぜ今、農家にとって重要なのか
「農業を取り巻く環境が厳しさを増している」と感じている農業経営者の方は少なくないはずです。化学肥料・農薬の価格は近年大幅に上昇し、燃料費も高止まりが続いています。こうした資材コストの増大が農業経営を直撃している現在、リジェネラティブ農業が提示するのは「資材への依存を段階的に下げながら、土の力を高める」という長期的な経営戦略です。
化学肥料や農薬に頼る農業では、毎年多くの外部投入資材を購入し続ける必要があります。一方、健全な土壌が育てば、土そのものが肥料や病害虫対策の役割を果たすようになります。移行期間中の2〜5年は収量が安定しない時期もありますが、土壌改善が進んでからの農業経営は、コスト構造そのものが変わります。
農林水産省が2026年度の重点施策としてリジェネラティブ農業の拡充を掲げた背景には、こうした現場の課題と、環境・食料安全保障の両立という政策課題が重なっています。
北海道十勝で始まった実証事業
日本国内でも先進的な取り組みが動き始めています。2026年3月、北海道浦幌町の一般社団法人「十勝うらほろ樂舎」が国の事業採択を受け、リジェネラティブ農業の「十勝型モデル」確立に向けた実証事業をスタートしました。農家や研究機関が連携し、土壌環境の変化や農業経営への影響を3年間かけて調査する計画です。
十勝地域は国内有数の大規模農業地帯でありながら、農業者の減少や資材高騰による収益圧迫が課題となっています。そこにリジェネラティブ農業を導入し、「コスト削減と土壌再生を同時に実現できるか」を検証するこの試みは、全国の農業経営者にとっても大いに参考になる事例となっていくでしょう。
小さく始めて、着実に土を変える
「すべての農地でいきなり転換するのは難しい」——そのとおりです。まずは一部の圃場から試してみることが、成功への近道です。
手始めとして取り組みやすいのは、カバークロップの導入です。収穫後の農地に麦・クローバー・えん麦などの緑肥作物を播種するだけで、翌年の雑草抑制・有機物供給の効果が期待できます。農業資材として必要なコストは少なく、土壌改善の変化も比較的早く実感できます。
次のステップとして、輪作体系の見直しがあります。同じ作物を繰り返す連作は土壌病害を招きやすく、農薬使用量も増加します。異なる科の作物を組み合わせた輪作に切り替えることで、土壌の生態系バランスが整い、農薬・肥料の削減につながります。
また、地域の農業試験場やJA、農業普及センターに相談することで、各地域の気候・土壌条件に合ったカバークロップや輪作の組み合わせについてアドバイスを得ることができます。国の補助事業の採択件数も増えてきているため、支援制度の情報収集も欠かさず行うことをお勧めします。
環境への貢献が、農業の価値を高める
リジェネラティブ農業には、農業経営上のメリットだけでなく、社会的な意義もあります。土壌の有機物が増えると、大気中の二酸化炭素を農地に閉じ込める「炭素固定」が促進されます。これはまさに地球温暖化対策への直接的な貢献です。
農水省は現在、農地の炭素固定量をJ-クレジットとして認証する方法論の拡大を検討中です。将来的には、リジェネラティブ農業の実践がカーボンクレジット収入という形で、農業経営にさらなる付加価値をもたらす可能性があります。これは、農業が地球環境の回復に能動的に関わることができるという、農家にとって新しい誇りでもあります。
また、企業のサステナビリティ調達が加速する中、「環境再生型の農業で育てた農産物」を求める食品メーカー・小売の声は年々高まっています。農産物の付加価値向上や、安定した販路確保という観点からも、リジェネラティブ農業への取り組みは農業経営の差別化戦略になり得ます。
GREEN BENEFITは「農業と環境と地域を、一体として豊かにする」というビジョンのもと、農業経営者の皆さんと共に歩んでいます。リジェネラティブ農業は、その理念を最もダイレクトに実現する手法の一つです。「まず何から始めればいいか分からない」という方も、一緒に第一歩を考えてみませんか。あなたの農地が、地域の環境再生の起点になる日は、そう遠くないはずです。