
「うちはまだ先の話」——経営継承について、そう感じている方は多いのではないでしょうか。ですが、2020年の農林業センサスでは、全国の農業経営体のうち約7割にあたる76万件超が、5年以内に引き継げる後継者を確保できていないと答えています。後継者を確保できている経営体は、全体のわずか4分の1です。
基幹的農業従事者の平均年齢はここ10年、66〜69歳で推移しており、農業従事者の数も平成27年の175.7万人から令和2年には136.3万人まで減っています。高齢化と担い手不足が同時に進む中、経営継承は「いつか考えること」ではなく、「早めに手をつけておくこと」に変わりつつあります。
今回は、後継者不足の実態と、2026年に動きがあった税制・補助の制度を整理しながら、経営者として今できる備えを考えます。
経営継承が「後回し」になりやすい理由
経営継承は、名義や書類の手続きだけでなく、農地・機械・建物といった資産の引き継ぎ、取引先や金融機関との関係の引き継ぎ、そして経営権そのものの移譲まで、いくつもの工程が重なる作業です。後継者がすでに決まっている家族間の承継であっても、「いつ、何を、どう渡すか」を具体的に決めないまま時間が過ぎてしまうことは珍しくありません。
さらに、税制優遇を受けるには青色申告の貸借対照表への計上など事前の準備が必要な場合が多く、「制度があることを知らないまま、気づいたら期限が近づいていた」というケースも起こりがちです。経営が順調であればあるほど、日々の作業に追われて承継の準備は後回しになりやすいのが実情です。
2026年、事業承継税制の期限が延びた
農業を含む個人事業者向けの「個人版事業承継税制」は、先代から後継者へ農地・農業用建物・農業機械などの事業用資産を贈与・相続する際、贈与税・相続税の納税を猶予・免除できる制度です。
この制度を使うために必要な「個人事業承継計画」の都道府県への提出期限が、令和8年度税制改正大綱(2025年12月19日、与党公表)により、2026年3月31日から2028年9月30日へと延長されました。
ここで注意したいのは、延長されたのはあくまで「計画の提出期限」であるという点です。実際に贈与や相続で資産を引き継ぐ際の適用期限は別に定められています。制度の詳しい内容や自分の経営に当てはまるかどうかは、税理士や農業経営の相談窓口に確認することをおすすめします。
後継者への移譲を後押しする補助制度
農林水産省は「経営継承・発展等支援事業」(令和7年度=2026年度実施)として、地域の「人・農地プラン」に位置づけられた中心経営体などを対象に、先代から経営主宰権の移譲を受けた後継者を支援する補助制度を設けています。経営継承にかかる部分では、補助上限額100万円の枠があります。
原子力被災12市町村や令和6年能登半島地震の被災市町なども対象に含まれており、地域の事情に応じた支援が用意されています。対象となる要件は経営体の状況によって異なるため、詳しくは農林水産省の公募要領や、お近くの農業経営相談窓口でご確認ください。
法人化という選択肢も視野に
所得が一定額(目安として800万〜1,000万円程度)を超える経営体では、法人化によって税負担や制度融資の面で有利になるケースが多いといわれています。経営継承を機に、個人経営から法人経営への切り替えを検討する動きも見られます。
法人化は税制面のメリットだけでなく、経営権や資産の引き継ぎ方を整理するきっかけにもなります。後継者にとって「何を、どこまで引き継ぐのか」が明確になり、経営判断の自由度を確保しやすくなるという面もあります。
まとめ
後継者不足は、多くの農業経営者にとって他人事ではない現実です。しかし、2026年は税制の期限延長や補助制度の実施など、経営継承を後押しする動きがある年でもあります。
「まだ早い」ではなく、「今のうちに整理しておく」という発想で、一度ご自身の経営を振り返ってみませんか。農地・資産・経営権をどう渡すか、誰に、いつまでに相談すればよいか——具体的な一歩を、専門家と一緒に考えることから始められます。