
政府は、2027年4月1日から2年間、軽減税率の対象になっている飲食料品の消費税率を、いまの8%から1%に下げる方針を決めました。9月15日に大綱(制度の骨組み)が閣議決定され、10月9日には関連する法案が国会に提出されています。
「食べ物が安くなるのは良いこと」と受け止められがちですが、農家にとっては話が少し複雑です。売る農産物の税率は1%に下がる一方で、肥料や農薬、燃料、資材を買うときの税率は10%のまま。経営のかたちによっては、減税なのに手取りが減ることがあります。
法案はまだ成立していませんが、どの税の納め方を選ぶかは、2027年の経営に直結します。いまのうちに押さえておきたい点を整理します。
何が変わるのか:「売るものは1%、買うものは10%」
今回の対象は、いま8%の軽減税率がかかっている飲食料品です。野菜や米、果物などの販売は、2027年4月から2029年3月までの2年間、1%になる予定です。外食とお酒は10%のままです。
一方、肥料・農薬・燃料・農業資材・機械などは飲食料品ではないため、10%のままです。つまり、売るときに受け取る消費税は大きく減り、買うときに払う消費税は変わりません。この「差」をどう扱えるかが、農家ごとの明暗を分けます。
日本農業新聞の報道によれば、農家の9割超は、消費税を納めない「免税事業者」か、簡単な計算で納める「簡易課税」を選んでいる事業者です。政府の大綱も、こうした事業者、特に農林漁業者で利益へのマイナスの影響が大きいと整理しています。
納め方で、影響はこう違う
免税の農家は、仕入れで払った10%の消費税を取り戻す仕組みがありません。これまでは販売価格の中に8%分を含めて受け取れていましたが、それが1%分に縮みます。取引先から「税が下がったぶん値下げを」と求められれば、そのまま手取りが減ります。
簡易課税の農家は、大綱では、1%の食料品の売上について「売上の税額と同じ額を仕入れの税額とみなす」特例が予定されています。食料品の売上分の納税はゼロになる見込みですが、仕入れで払った10%は戻りません。
本則課税の農家(実際の売上と仕入れの税額を差し引いて計算する方式)は、仕入れの税額が売上の税額を上回れば、その差額が還付されます。
仮の例で見てみます。税抜の売上が1,000万円、肥料や資材などの税抜の仕入れが500万円の農家の場合、いまは売上の税80万円から仕入れの税50万円を差し引き、30万円を納めます。1%になると、売上の税10万円に対して仕入れの税は50万円のままなので、差し引き40万円が戻ってくる計算です。ただし、還付は申告のあとなので、それまでの資金繰りには注意が必要です。
国の支援策と、まだ決まっていないこと
大綱では、農林漁業者向けに次の方針が示されています。
- 本則課税への移行が難しい事業者に、個別の売上高を踏まえた金額を給付する仕組み
- 減税直後の資金繰りの悪化への支援
- 本則課税に移るときの、税理士費用などの支援
また、本則課税に切り替えるための届出は、通常は前もって出す必要がありますが、今回は「その課税期間の末日まで」に出せばよく、簡易課税の「2年間は続ける」という決まりも外す案になっています。
ただし、給付の金額や条件、申請方法は、これからの予算編成(12月頃の政府予算案)で決まります。法案の成立も含め、細部は変わる可能性があります。
いまできる3つの準備
1. 自分の「納め方」と仕入れの多さを確認する
免税か、簡易課税か、本則課税か。そして、売上に対して肥料・資材・燃料などの仕入れがどれくらいあるか。決算書や帳簿から、ざっくりでよいので数字を拾っておきましょう。仕入れの割合が高い経営ほど、影響が大きくなります。
2. 2年間の手取りを、納め方ごとに試算する
本則課税に移れば還付を受けられる場合がありますが、帳簿やインボイスの保存などの手間、税理士費用がかかります。2029年4月に税率が8%に戻ることも見込んで、「2年間の手取り」と「手間とコスト」を並べて比べてみてください。届出の期限に余裕がある案とはいえ、早めに税理士に相談しておくと安心です。
3. 取引先と価格の話を早めにしておく
直売所、スーパー、飲食店、JAなど、取引先ごとに価格の決め方は違います。税率の切り替えで値下げを求められそうか、価格表示をいつ切り替えるか。先に話をしておくことで、慌てた値下げを防げます。
まとめ・行動提案
食料品の消費税1%は、消費者にとっては負担が軽くなる一方、農家にとっては「売るものは1%、買うものは10%」という差が生まれる制度です。影響の大きさは、納め方と仕入れの多さで大きく変わります。
まだ法案の段階だからこそ、慌てずに準備できます。まずは、自分の納め方と仕入れの割合を確かめ、2年間の手取りを試算するところから始めてみませんか。数字が見えれば、選ぶべき道も見えてきます。
※制度の内容は2026年10月19日時点の大綱・法案に基づくもので、今後変わる可能性があります。個別の判断は、税理士などの専門家にご相談ください。