
「今年は天気に振り回された」「値段が思ったより伸びなかった」。一年の作業を終えて帳簿を見返すこの時期、来年のことが気になっている農家さんも多いと思います。
天候も価格も、自分だけの努力では動かせません。だからこそ、「売上が落ちた年にどう持ちこたえるか」を、いまのうちに決めておくことが経営の大切な一手になります。そのための仕組みのひとつが「収入保険」です。個人の農家さんが来年(2027年)1月から加入するには、今年12月末までの申請が必要です。仕組みと、迷ったときの確かめ方を整理します。
収入保険は「品目を問わず、売上全体」を守る仕組み
収入保険は、青色申告をしている農業者(個人・法人)が入れる国の制度です。特徴は、作物ごとではなく、自分で作って売った農産物の販売金額全体を対象にすることです。自然災害による不作だけでなく、価格の下落など、農家さんの努力では避けられない収入の減少を幅広くカバーします。
仕組みはこうです。過去の売上をもとに「基準収入」(原則は過去5年の平均)を決め、その年の収入が基準収入の9割を下回ったとき、下回った分の最大9割が補てんされます。補償の範囲や支払いの割合は、自分で選べます。
補てんの方式は2つあります。
- 積立方式併用タイプ:掛け捨ての「保険」と、使わなければ翌年に持ち越せる「積立」を組み合わせる
- 保険方式補償充実タイプ:掛け捨ての保険だけで補償を手厚くする
費用には国の補助があり、保険料の50%、積立金の75%、事務費の50%以内を国が負担します。補助後の保険料率は、おおむね1.5%(掛け捨て)と案内されています。保険金を受け取らなかった年が続けば、翌年の料率は下がっていきます。
実際に、どのくらいの人が受け取っているのか
「保険に入っても、結局使わないのでは」と感じる方もいるかもしれません。農林水産省の資料(令和8年1月末時点)を見ると、保険金などを受け取った経営体の割合は、2021年(令和3年)が加入者の52.1%、2022年が39.3%、2023年が27.6%、2024年が15.8%(暫定値)でした。年によって差はありますが、毎年、少なくない数の農家さんが実際に補てんを受けています。
加入者は年々増え、2025年(令和7年)は103,441経営体になりました。一方で、青色申告をしている農業経営体のうち、加入しているのは29.8%です。まだ入っていない方の方が多く、「よく分からないまま見送っている」という声もよく聞きます。
個人は「12月末まで」。いまの時期にやること
個人の場合、保険の期間は1月から12月の1年間で、確定申告の対象期間と同じです。来年の分に入るには、今年の12月末までに加入申請をし、保険料などを納めます。保険料と積立金は分割払いもでき、最終の納付期限は保険期間の8月末です。保険金の請求は、確定申告のあと(3〜6月ごろ)になります。保険期間中に災害などでお金が必要になった場合は、無利子の「つなぎ融資」を受けられる仕組みもあります。
注意したいのは次の3点です。
1. 青色申告が前提
加入には、保険期間の前年分の青色申告(簡易な方式でも可)の実績が必要です。2027年に入るなら、2026年分を青色申告していることが条件になります。
2. 似た制度とは「どちらか一方」
農業共済、ナラシ対策、野菜価格安定制度などとは、どちらか一方を選ぶ形になります。今入っている制度と比べて決めましょう。なお、野菜価格安定制度との同時利用の特例は、2025年以降に新しく加入する方には適用されません。
3. 県の上乗せ補助がある場合も
たとえば岐阜県では、2027年1月から新しく加入する個人などを対象に、保険料の5分の2(上限2万円)を補助する事業があります。こうした補助は県や年度によって違うので、お住まいの地域で確認してみてください。
申請の窓口は、地域の農業共済組合(NOSAI)です。インターネットでの申請や自動継続を使うと、事務費が割引になる仕組みもあります。
迷ったときは「3つの数字」で考える
入るかどうか迷ったら、次の3つを書き出してみてください。
- この5年で、売上がいちばん落ちた年は、平年よりどのくらい少なかったか
- その年、手元の資金で何か月持ちこたえられたか
- 今払っている共済などの掛け金は、年間いくらか
売上が大きく落ちた年に、手元のお金が足りなくなる心配があるなら、保険で備える意味は大きくなります。逆に、蓄えが十分にある、売り先が分散していて落ち込みが小さい、という方は、今の制度のままでもよいかもしれません。具体的な保険料は、NOSAIが用意している試算の仕組みで、自分の数字を入れて確かめられます。
まとめ・行動提案
天候や価格の波は、これからも続きます。収入保険は、その波の中で「来年も続けられる」という安心をつくる道具のひとつです。大切なのは、入るか入らないかを、なんとなくではなく、自分の数字で決めることです。
個人の方の申請は12月末まで。まずは、過去5年の売上と、今入っている制度の掛け金を並べてみませんか。経営の数字を一度整理しておくことは、保険を考えるときだけでなく、来年の作付けや投資を決めるときにも、きっと役に立ちます。
※制度の内容は2026年11月2日時点の農林水産省・県の公表資料に基づくもので、今後変わる可能性があります。加入の判断や具体的な保険料は、地域の農業共済組合(NOSAI)にご確認ください。