
秋の作業が落ち着き、年末が近づくと、「今年はいくら税金がかかりそうか」「来年、あの機械を入れ替えられるか」が気になってくる時期です。
税金と設備投資は、別々に考えがちです。けれど、交付金を受け取っている農家さんには、この2つをつなげて考えられる国の仕組みがあります。それが「農業経営基盤強化準備金」です。交付金を積み立てておくと、その年の税負担を先送りでき、数年後に農地や機械を買うときに使えます。今年から条件の一部も変わりました。仕組みと注意点を整理します。
交付金を「貯金」して、税負担を先送りする仕組み
この制度では、青色申告をしている認定農業者(または認定新規就農者)が、国の交付金を「準備金」として積み立てると、その金額を個人なら必要経費、法人なら損金にできます。つまり、積み立てた分は、その年の所得から差し引かれます。
その後、準備金を取り崩して農地や機械・施設を買ったときは、「圧縮記帳」という方法で、その年の経費にできます。圧縮記帳とは、買った資産の帳簿上の値段を下げ、下げた分をその年の経費にするやり方です。
農林水産省のパンフレットにある試算例(税率12%と仮定した単純な例)では、販売収入650万円・交付金250万円・経費530万円の農家さんが交付金250万円を積み立てると、税額は44万円から14万円になり、30万円の差が出ます。
ただし、大切な点があります。これは税金が「なくなる」仕組みではなく、「先送り」する仕組みです。圧縮記帳した分は、後の年に減価償却費として経費にできなくなるからです。その代わり、まとまったお金を、必要なときに投資へ回しやすくなります。
使えるのは誰? 対象の交付金と資産
対象になるのは、次の条件をすべて満たす方です。
- 青色申告をしている認定農業者(個人・農地所有適格法人)、または認定新規就農者(個人)
- 市町村がつくる「地域計画」で、「農業を担う者」として位置づけられている
- 買いたい農地や機械が、自分の農業経営改善計画(認定新規就農者は青年等就農計画)に書かれている
積み立てられるのは、畑作物の直接支払交付金(ゲタ対策)、米・畑作物の収入減少影響緩和交付金(ナラシ対策)、水田活用の直接支払交付金などです。野菜や果樹、きのこだけを作っている経営では、対象の交付金を受けていないことも多いので、まず自分が対象かどうかを確かめましょう。
使い道は、農地のほか、30万円以上の農業用の機械・施設などです。トラクター、田植機、コンバイン、乾燥機、選果機、農業用ドローン、ビニールハウス、低温貯蔵庫、農作業の管理ソフトなどが例として挙げられています。一方、トラックやフォークリフトなどの車両、中古品は対象になりません。
今年から変わったこと、これから決まること
2026年度(令和8年度)から、準備金で買える農地は、地域計画で「その人が使う農地」として定められたものに限られるようになりました。農地の購入を考えている方は、お住まいの市町村の地域計画に、自分がどう書かれているかを確かめておくと安心です。
また、この制度の期限は2027年3月31日です。農林水産省は、期限の2年延長と、水田政策の見直しに合わせた手当てを、来年度の税制改正で求めています。まだ決まったわけではないので、年末の税制改正の行方を見ておきましょう。
利用は年々増えています。適用件数は、2023年度の14,290件から、2025年度は18,151件になりました。農林水産省の検証では、制度を使った認定農業者は、使っていない人に比べ、10年間で経営面積が約3ha広がり、面積あたりの売上が約10%伸びたという結果も出ています。
使う前に押さえたい3つの注意点
1. 5年以内に使う計画を立てる
積み立てた翌年から数えて5年を過ぎた準備金は、順に収入に戻され、税金がかかります。「何年後に、何を買うか」を先に決めておくことが前提です。
2. 買うものは事前に計画へ書いておく
新しく買う農地や機械は、前もって農業経営改善計画などに書き、認めてもらう必要があります。計画を直すには時間がかかるので、早めに市町村に相談しましょう。
3. 証明書の申請は早めに
制度を使うには、農林水産大臣の証明書を確定申告書に添えて出します。申請の目安は確定申告の1か月〜3週間前までで、申告の時期は窓口が混み合います。インターネットでの申請(農林水産省の共通申請サービス)も使えます。初めて使う年は、税務署への事前の届け出も必要です。
まとめ・行動提案
交付金は、受け取った年にそのまま使うこともできます。けれど、少しずつ積み立てて、数年後の大きな投資にまとめて使うという道もあります。大切なのは、「今年の税金」だけでなく、「3年後、5年後にどんな経営をしていたいか」から考えることです。
まずは、今年受け取った交付金の額と、この先5年で買い替えたい機械や広げたい農地を、一枚の紙に書き出してみませんか。数字が並ぶと、積み立てるべきか、今使うべきかが見えてきます。
※制度の内容は2026年11月9日時点の農林水産省の公表資料に基づくもので、今後の税制改正などで変わる可能性があります。実際に使えるか、具体的な金額は、地方農政局・県域拠点、税務署、税理士などにご確認ください。